弁護士と公認会計士と並んで、日本の3大国家試験の1つとされる不動産鑑定士についてご紹介します。不動産関係の資格の中では最高峰とも呼ばれるこの資格の取得方法や魅力についてお伝えします。
不動産鑑定士の仕事内容とは
土地やマンションなどの不動産を売買するときには、その価値がどのくらいであるか評価する必要があります。
その際に、鑑定して評価を決定するのが、この資格の仕事です。
不動産鑑定士が行う業務は大まかに言えば、不動産の“鑑定評価業務”となります。
これは、不動産売買の価格に関わる評価とはやや異なります。
厳密に言えば不動産価格に関わってくるものの、この価格なら売れるといった、商売目的の評価ではありません。
不動産そのものの利用価値を鑑定して、不動産本来の純粋な価値を決定するのが、この資格の役割です。
その業務内容は2つに分かれますが、まず公的な鑑定評価業務があります。
これは地価公示や固定資産税評価、相続税評価や相続税路線価評価などとなります。
そしてもうひとつは民間の評価となり、不動産売買や賃料などの取り引きに関する鑑定業務や不動産の証券化のための価格判断資料などとなっています。
デスクワークとしては調査した不動産の状況をまとめたり、鑑定評価を行い書面にまとめる作業を行います。
鑑定評価を行うためには、過去の取り引き事例や建設物価といった様々なデータを確認することになります。
不動産活用における収益物件に関しては、金利動向といった数値データも用意して参考にします。
他に不動産鑑定士は、屋外に出てフィールドワークも行います。鑑定評価を算出する対象物件を直接調査するために、現地へ足を運ぶわけです。
他に役所などにも立ち寄って資料を収集することも行います。
役所関係としてはまず、法務局で不動産の登記に関する確認作業を行います。
また市町村役場でさらに細かく、物件の場所における都市計画法や建築基準法などを調べます。さらにガスや上下水道が引き込まれているかなどもチェックします。
不動産の評価だけでなく、顧客から託された投資目的の不動産を運用したり、投資判断に使われる材料の作成といった業務も行います。
不動産鑑定士の活躍の場は?
就職する場として最も多いのは不動産鑑定事務所です。
仕事内容はまず、国や都道府県、市区町村から依頼される土地評価の算出があります。
また裁判所からの競売物件の評価といった公的な仕事が多くなります。
また銀行からはローンの融資のための担保価値を調べることや、会計事務所からの依頼で企業不動産の時価評価、売買の目安とする目的で鑑定作業を行います。
他に勤務先として金融系の会社があります。
銀行や資産運用会社などがありますが、不動産の担保評価を独自に行うために不動産鑑定士を雇うことになります。
また信託業務として、オーナーが保有する不動産を運営する信託銀行で投資判断に関わることもあります。
他にもコンサルタントとして活躍する人も増えています。弁護士や司法書士などと組んで富裕層に向けた資産運用のアドバイスを行うことになります。
あるいはマンションの建て替えに関する相談に応じたり、不動産を利用しての事業計画や資金計画の指導を行うケースもあります。
例えば下記のような場面で活躍できます。
- 不動産を賃貸借するとき
- 不動産を担保するとき
- 不動産を相続するとき
- 不動産を売買(等価)交換するとき
- 資産評価するとき
- 共同ビルの権利調整
不動産鑑定士になるためには
年に1度行われる国家試験に合格する必要があります。
とても難しい知識と技術を求められる仕事内容が主になりますので、試験に合格するのも至難の業です。
不動産に関係する国家試験においては、最も難易度が高いとされるほどです。
一次試験と二次試験が存在します。
まずは一次試験から受けますが、受験に必要な資格はありません。
大学や専門学校を卒業していなくても、誰でも試験を受けることが可能です。
短答式の一次試験と、非常に難易度が高いとされる論文式の二次試験の構成になっています。
まず5月の第2日曜日に行われる短答式試験があります。
択一式のマークシートですが、この試験で合格した人のみが8月の第1日曜日を含む土日月の連続する3日間行われる論文式試験を受けることができます。
短答式試験に合格すれば、その年を含めて3年まで論文式試験を受験できます。
短答式試験の受験資格は特に定められていないので、国籍も関係なく誰でも受けることができます。
受験料は電子申請が12,800円、書面申請が13,800円となっています。
試験に合格したら、実務修習を修了して国土交通省に備えられる不動産鑑定士名簿に登録されることで、ようやく不動産鑑定士として活動できるようになります。
試験内容は次の通りになります。
まず短答式試験ですが、科目は次の2つです。
- 不動産に関する行政法規(土地基本法や都市緑地法など)
- 不動産の鑑定に関する理論
そして論文式試験ですが、科目は次の2つです。
- 専門科目(鑑定理論や行政法規など)
- 一般教養科目(民法や経済学、会計学など)
短答式試験はさほど難しくなく、合格率は25%前後です。
一方で論文式試験は一般教養科目の範囲がかなり広く難解です。合格率は10%前後となります。
勉強に必要な時間は2,000時間ほどですが、おおよそ2年は必要と言われます。
独学で勉強する場合、短答式試験はクリアできますが、論文式試験の合格は難しいようです。
スクールはLECとTACのみが専門コースを用意しているので、通って講義を受けるならこのどちらかになります。
ただしどちらも都市圏にしか教室が無いので、それ以外の地域の人は通信教育で勉強することになります。スクールの費用は30万円から40万円ほどとなります。
3年以内に二次試験に合格できなければ、再び一次試験からやり直さなければなりません。
難しい試験内容になっているものの、何度でも受験することが可能です。
気になる年収は
不動産鑑定士の平均年収はおよそ600万円から700万円です。
開業して事業を行っているものが多く、固定資産税の評価替えが発生する年になると、年収が平均よりも高くなる例がよく見られます。
独立して開業している方が、多くの収入を得られるイメージがありますが、より多くの収入を狙うなら、外資系企業への就職がおすすめです。
外資系の金融関連会社であれば、1,000万円から1,500万円ほどにもなるケースが見られます。これは能力によって差が出るものですが、携わる業務内容に応じて報酬は大きく反映されることになります。
独立開業している不動産鑑定士も多く、この場合は公的鑑定評価の業務だけでも平均年収は900万円前後と見られます。それに加えて民間の仕事も行う場合は1,000万円ほどになるようです。
実務研修生として働いている時期には、年収がとても少なくなります。
まだ見習いの段階ですので、仕方がない部分ともいえます。
この期間は、しばらく金銭的な余裕がない状態ですが、それは医者や弁護士も同じと言えます。
実務研修が終了すれば、よりよい就職先や開業の道が開けます。
不動産鑑定士の魅力
不動産鑑定士の仕事は景気に影響を受けにくい特徴を持ちます。
好況期となれば不動産内内に伴う評価業務が増えますし、さらに証券化などの評価業務も増えてきます。
一方で不況期でも、地価公示や固定資産税評価といった公的評価を安定的に得ることができますし、競売物件や任意整理が増えるためにその評価業務も増加します。
また相続における評価なども安定的にあります。
不動産鑑定士に向いている人とは?
不動産鑑定士は鑑定評価を行う上で、細かな仕事を行います。
資料の調査として現地での確認を行ったり関係者にヒアリングを行うこともあります。
さらに計算に必要となる数値を統計を活用して算出したり、その後文章でまとめる作業も行います。
このようにフットワークの軽さを求められるので、精力的に活動できる人が向いていると言えます。また数学に関する高いスキルも求められます。
さいごに
不動産鑑定士は、資格の取得が難しいことで知られます。
また就職先の求人情報は一般のハローワークや転職サイトで見かけることがほとんどありません。
特定の求人情報で探すか、予備校の説明会に参加するといった活動が必要になります。
けれども業務は安定してありますし、独立すればコンサルタントとしての活躍の場がさらに広がります。
将来性に関しては非常に魅力ある資格であると言えます。
多くの収入を得るためにも、他の同じ資格取得者に負けない知識と実績を積み、よりよい条件で就職できる会社に採用されたり、独立開業しているなら、営業活動を効率よく行うようにしたいところです。